空港行きのリムジンバスに乗るといつも同じような感情が押し寄せる。
わくわく、そわそわ、どきどき。
そして、ちょっと胸を締め付けられるようなセンチメンタルな気持ち。
たぶん、わたしがリムジンバスに乗って空港に行った回数ぶんだけの思い出が蘇るからだ。
恋人とリムジンバスの車内で電話で別れ話をして泣きながら空港に向かったこと。
二日酔いでもう旅行なんて行きたくないと思いながら、前夜Barで間違えて持って帰ってきた知らない人のストールを巻いて飛び乗ったこと。
眠いから寝ようと思ったのに一生懸命わたしに話しかけてきた、母との最後の旅の思い出。
空港で待ち合わせしている友達との旅行が楽しみすぎて眠れなかった前夜。
東京に遊びに来る友人を迎えに行った時のこと。
夫に内緒で修行をはじめたはじめての朝。
これから生まれてはじめてのビジネスクラスに乗る日の朝。いつもよりだいぶ早く空港に向かった。
大切な誰かを涙を堪えた笑顔で見送った夕方。
帰国する恋人に会うために急遽空港に会いに行くときの落ち着かない気持ち。どんな顔して迎えればいいのかわからなくて。
いつもほんのちょっとだけ、胸が苦しくて、お腹が痛くなる。
子供の頃から数え切れないほど乗ってきたし、もういいオトナなのに、それはいつもかわらない。
電車で空港に向かう時はこんなことないのに、リムジンバスに乗ると途端に非日常が始まる。
空港行きのリムジンバスだけが、わたしにとって特別なのだ。
トンネルを抜けると空に浮かぶ飛行機の影が大きくなっている。
あと数時間もすればわたしは機上の人になっているか、大好きな誰かと笑っている。
その数時間後を想像して、ますます胸が高鳴る。
リムジンバスは、恋に似ている。